先日、イギリスのNHSで流産の手術を受けてきた。
手術は無事に終わったのだけれど、今はまた違った問題に直面している。それは、だたの流産ではなく、異常妊娠である「胞状奇胎」の疑いである。流産だけでも十分にダメージを与えられたのに、それよりも更に悪いことが自分の身に降りかかるなんて思いもよらなかった。
胞状奇胎が疑われた経緯とその可能性を言及されるまでは、イギリスならではだった。
この流産では、GPの案内で妊娠初期に出血などのトラブルがあった際に対応してくれるearly pregnancy unitに問い合わせ、2度のスキャンとhcgを測るための血液検査を受けた。
1度目のスキャンで、既に胎嚢が崩れていて子宮内に妊娠の根拠が見当たらないと言われ「inconclusive scan」の案内をされた。この場合、妊娠初期すぎてまだ胎芽や心拍が確認できなかった(妊娠6週前)、流産(成長が遅すぎる、もしくは出血があったのであれば既に流産してしまった)、子宮外妊娠のどれかに該当する。
私は1度目のスキャンで既に妊娠7週半ばだったので、流産なのだろう解釈した。そしてinconclusive scanの場合、スキャンの直後とその48時間後の血中hcgを測り、上記3つのどれに該当するかを確認するのだが、ここで予想外のことが起こる。スキャンでは流産していると判断できるのに、2回目のhcgの数値が上がっていたのだった。
そこで、急遽2回目の血液検査の次の日に、2度目のスキャンを受けた。
そこではドクターからハッキリと「miscarriage」と告げられ、崩れた胎嚢もモニターで見ることができたのだった。この後どうするかは、後日ドクターからいくつかのオプションが提示される連絡がいくので、それを待つように言われた。因みにドクターのファイルから盗み見たhcgの数値は、1回目は31000くらい、その48時間後はうろ覚えだけれど36000か39000だった。
数日後、early pregnancy unitから電話連絡が入り、いきなり手術日とそのためのペーパーワークの日を案内をされた。薬で排出しようかなと考えていたので、いくつかの選択肢があると聞いたんですけど…と聞いてみたら、他の選択肢もあるけれどドクターの判断であなたは手術をしたほうが良いと言われたので、私はそれを承諾。
手術の日程は2度目のスキャンから12日後、その数日前に手術の事前説明・ペーパーワークをする日が設けられた。
そしてペーパーワークの日。予約時間の2時間前に急遽キャンセルになったから連絡をくれとボイスメールが入り、折り返し連絡したら、手が空いたら連絡するから名前と連絡先をボイスメールで残せと機械対応。その返信にまたボイスメールで連絡をよこされ、まともに連絡が取れないので仕方なくキャンセルになった予約時間に病院へいった。マジでこのアホなシステム何とかしろ。ボイスメール要らないだろ。普通に連絡よこせ。
その病院の受付にて、ペーパーワークの担当をしてくれるドクターからNHSのシステムがダウンした影響で今日は対応できないと言われ、手術の前日の午後に予約が変更になったと言われる。私の代わりに娘の面倒を見る為に仕事を早退した夫、その日は急に休めないから今日できないかと交渉するが、もちろんダメだった。
NHSのこういうところがすごく嫌だとイラつきつつ、もう手術とかいいので自然排出を待ちます、このやり取りとかもストレスなのでと立ち去ろうとしたところ、ドクターにあなたは早く手術を受けなきゃダメと止められる。
説明するからこっちに来てとドクターの個室に案内され、「あなたはmolar pregnancyだから、自然には排出されない。早く手術で中身を出して、がんの元になる組織が無いか専門の機関に検査してもらわなくてはダメ」だと。
…衝撃。
molar pregnancyという英語、早く手術をしなくてはいけない、がんになる可能性など…うろ覚えだけれど、それ知ってる。心当たりある。出血したり止まったりが気になって、妊娠初期の出血で散々調べて、可能性の一つとして必ず挙がってきてたやつ。滅多にないことだと思ってスルーしてた。
胞状奇胎ってやつじゃない?ただの流産より全然ヤバいやつじゃんと気が付き、衝撃で固まった私。流産宣告の時は出なかった涙が出てくる。夫は最初何のことやらサッパリだったけれど、イラつきが消え茫然と涙を流す私の様子とドクターの解説で、ペーパーワークの日程変更とかどうでもいい、それどころじゃないと態度を変えた。
なんでここで言う?なんでもっと早く言わないの?2度のスキャンのときや手術の日程連絡の時に言えたじゃん。何でそこで言ってくれなかったんだよ。それに、胞状奇胎の疑いがあるのであれば、なんでもっと早く手術しないの?何で2回目のスキャンから12日もあとなんだよ…と、ショックとイラつきでフワフワしながら、その日は過ごした。
そして次の日から手術までの3日間、胞状奇胎について調べまくる。
症状は、出血は当てはまるけれど、つわりは酷くない。スキャンの画像は、ブツブツ見えてたかなあ…胎嚢?の原型を留めてないってくらいしか、素人の私には分からなかった。hcgの値は7週の時点で3万台、これも胞状奇胎にしては低い様に思うけれど、よく分からん。お腹が膨らむのが早いらしいけれど、これも太ったのか胞状奇胎のせいなのか分からない。可能性はありそうだけれど、やはり検査に出さないと分からないか。
とにかく、早く手術しないと。胞状奇胎だったら、こうしている間にもお腹の中でがんの元になる組織を育てているってことになる。手術までの数日、正気ではいられなかった。
因みに手術は結局、9w5dで受けた。日本だったらもっと早く受けられただろうに。もし抗がん剤治療から先に進んだら、この手術の遅れを恨まずにはいられないだろうな。
胞状奇胎だったら、良くて数か月~数年の経観観察と妊活制限、運が悪ければ抗がん剤での治療、最悪は絨毛ガンで転移など。もう2人目の子供は無理だろうな。年齢的にもそうだし、また胞状奇胎になってガンにでもなったら娘の成長さえ見れないかもしれないって考えると怖すぎる。しかも、治療はNHSで受けるのだから、どれだけのストレスを抱えるだろう。
あ~、まさか流産の方が全然マシだと思うようなことが自分の身に降りかかるなんて、思ってもみなかった。だたの流産ではなく、異常妊娠で病気。私からしたら全くの別物。妊娠したことが切っ掛けで、がんになる可能性が出てくるなんて、なんて残酷な病気なのだろう。
流産は辛かった。本当に。それでも、ただの流産であることを願うほど胞状奇胎は辛い。比べ物にならない。40歳で胞状奇胎とか、もう2人目はほぼ絶望的だから、2人目に挑戦するチャンスさえ奪われる。
流産で辛いけれど、高齢でチャンスは少ないしリスクもあるけれど、それでも2人目は諦めずに妊活しようと思っていた。流産の辛さは、それでも妊活していつか無事に妊娠出産までできたら、見方がきっと変わる。それまで頑張るしかないと思っていた。それなのに、胞状奇胎だったらそれはできない。もう希望なんてない。
こうして私は、流産の悲しみや虚しさなどは消え失せ、胞状奇胎かもしれないという不安をかかえ、それでもやっと子宮の中の物が出せるとほんの少し安堵しながら、手術を受けた。
手術は、全身麻酔で吸引法で行われた。人生で初めて受けた手術だった。
午前零時、手術当日になった瞬間から絶食・絶飲の指示。手術当日の朝、6:50に子宮の入り口を柔らかくするための薬を口内に入れ、ゆっくり溶かす。30分経っても溶けなかったら飲み込んでOKとのことだった。7:15~7:30の間に病院にいき、後は案内に従うだけ。
受付を済ませて個室に案内されたら、まずは看護師からいろんな質問と確認をされ、手術着に着替える。渡された手術着を着て、着圧ソックスを履き、持参したdressing gownとスリッパを履いて寛ぐ。薬を飲んでから1~2時間後から薄っすら腹痛を感じ、出血もし始めたのでソワソワ。
その後、麻酔医がきて質問に答えた後、麻酔の説明を受ける。最後に手術をメインで担当するドクターがきて、また質問と手術・手術後の説明を受ける。それぞれ重複した質問もあったし、その時だけ聞かれたこともあった。
11時頃に手術室の待合に案内されるが、手術の遅れがあり割り当てられた個室に戻される。そして11時40分ごろまた手術の待機場所へ移動。今度は少し待って直ぐに案内された。時間は分からない。そこで利き腕に血圧計、反対の腕には麻酔と点滴の為の針を刺され準備が進む。
酸素マスクを当てられ、少しずつ眠くなりますよ~と言われ、ドキドキしつつ目をキョロキョロ動かす。あれ~眠くならないじゃん…と思ったら目が覚めて、手術は終わっていた。13時頃。
それから抗生物質の点滴をされたまま、30分ほど手術後の回復室で過ごす。もう個室に戻っていいよ~と言われ、個室に戻り、点滴を付けたままサンドイッチとコーヒーをもらう。ただのツナサンドとブラックコーヒーなのに、すごく美味しかった。
その後、点滴が終わったので外してもらい、着替える。おしっこができたら帰っていいよ~と言われ、問題なく終了。14時15分ごろ病院を出て、無事に帰宅した。手術後は痛みは少なかったし、麻酔の副作用なども特になかった。
イギリスでは手術後の検査とかはしないので、流産の手術3週間後に自分で妊娠検査薬を使い、反応が出ないか調べるように言われる。もしまだ検査薬が陽性なら、まだ子宮内に残留物があるということになるので、ここに連絡してねと説明された。
ただ、私は胞状奇胎の疑いがあるので、手術の1週間後に血液検査でhcgの値を調べることになっている。手術で取り出した子宮内容物の検査結果が出るまで2~6週間かかるそうなので、ここでhcgの下がりが悪ければ、何らかの対応を取るのだろう。
ペーパーワークの時に説明してくれたドクターとは違うドクターが手術をしてくれたのだけれど、そのドクターも当日面倒を見てくれた看護師も、私に胞状奇胎の疑いがあるとは知らなかったようで、手術や手術後に関する説明は通常の流産の対応だった。この情報は共有しないのかあ…と驚きつつ、まあ結局やることは変わらないし余計なことは言わなくていいや、と思いながら手術を受けたのだった。
手術が終わって、ここ数日は無気力に過ごしている。何もやる気が起きない。体も思うように動かない。
できる事は何もない。結果は変わらない。結果を待って、出てきた結果を受け入れるしかない。
私は何かある度、それが怒りに変わって次の行動の原動力になることが多いけれど、今回はそんな元気出てこない。絶望に片足突っ込んで、そこから動けない。